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JNRSメールニュース 第18号 (2018/04/02)

 

目次

(18-01) 2017年度量子ビームサイエンスフェスタ開催
(18-02)   メスバウアー分光研究会第19回シンポジウム、開催される
(18-03)   Total Body PET 第1回国際会議について

 

(18-01)  2017年度量子ビームサイエンスフェスタ開催

2018年3月2日〜4日の日程で、茨城県県民文化センターを会場に標記フェスタが開催された。このフェスタは、第35回PFシンポジウムと第8回MLFシンポジウムという、高エネルギー加速器研究機構放射光科学研究施設(KEK-PF、つくば)とJ-PARC物質・生命科学研究施設(J-PARC MLF、東海)のシンポジウムを合同で開催する第3回である。放射光、陽電子、中性子、ミュオンという量子ビームは、基礎科学研究から産業応用にいたる広範な領域で、研究のためのかくことのできない道具として利用されてきている。また二つの研究施設が地理的に近いことからそれぞれの特徴を生かした相補的な利用による研究が広がりつつある。今年度は初めて水戸での開催となり、偕楽園の梅の花がほころび始める絶好の時期ともなった。
 4つのプローブを使った研究施設の現状報告、装置開発、新測定手法、試料測定環境条件の拡大、データ解析法の進展などの基礎研究・技術開発、それらを使った物理定数測定、物性測定、ソフトマター研究、生体物質科学から創薬などにまでおよぶ広大な研究領域にわたって口頭30件、ポスター262件の発表が行われ、500名以上が参加した。学生や若手研究者の参加も多く、優秀な6名の学生発表者には学生奨励賞が贈られた。
 特別講演の高尾正敏博士(元大阪大学、パナソニック)「スモールを束ねる場・大型研究施設」では、CDRやBlu-Rayなどの光記憶メディア開発者の経験に基づいた研究の話、有馬孝尚博士(東京大学、理化学研究所)「物質科学研究者として量子ビームに何を期待しているか」では位置、運動量、エネルギー、時間の8次元計測への期待が語られた。
 研究施設のユーザーと施設の担当者の意見交換セッションも設けられ、厳しい運営予算下での研究の活性化やそれぞれの施設の将来計画について熱心な討論が行われた。来年度も同時期につくばでの開催が予定されている。
(MKK)

 

 (18-02)   メスバウアー分光研究会第19回シンポジウム、開催される

 2018年3月19日から20日にかけて首都大学東京南大沢キャンパスにおいて、メスバウアー分光研究会第19回シンポジウムが開催された。本会は年に一回行われ、ここ数年は海外からの研究者を基調講演者として招待し、国際シンポジウムとしての役割も果たしてきている。今年は、4件の基調講演と15件の一般講演があり、透過法・時間微分法・内部転換電子法・放射光メスバウアー分光法や関連する測定手法を、ナノ粒子・磁性体・触媒・ガラス・環境試料等へ適用している研究対象の幅広い発表内容であった。全ての発表を通して、教員・学生によらずほとんどの講演が英語で行われた。学生は英語原稿を読みながらの発表も許可され、質疑応答では座長らによる通訳を介することによってスムーズかつバリアレスな議論を可能にした。このような措置によって、学生にとっての英語で発表を行うことに対する障壁は低く、和気あいあいとした雰囲気で会は進行した。本記事では、基調講演の内容に焦点を当てて紹介する。
チェコ科学アカデミーのLancok教授は、鉄を含むナノ材料・生物学へのメスバウアー分光の応用研究について包括的な発表をされた。同じくチェコ科学アカデミーのValfova氏は、光触媒である酸化チタンへの応用研究を行い、鉄の導入によって光触媒活性が向上すること可能性について検討した。その触媒活性の向上についての原因や触媒の反応メカニズムについての質疑応答があり、活発な議論が行われた。パラツキー大学(チェコ)のMachala教授は、鉄ナノ粒子を用いた水処理への応用研究を行い、重金属・リン・ヒ素の除去への適用可能性を示した。特筆すべきは、ナノ粒子には空気に対して不安定な六価の鉄の酸化物が用いられており、試料合成や測定手法に工夫が施されていたことである。シェフィールド・ハラム大学(英国)のBingham教授は、幅広い応用可能性を有する研究対象であるLnFeO3 (Ln = La、 Nd、 Sm、 Eu、 Gd)のデバイ温度の決定研究について再点検し、先行研究より精確に見積もることに成功した。加えて、X線回折実験やラマン分光測定と組み合わせることで、ランタノイドの違いによるデバイ温度の変化をFeO6正八面体体積とLn-Oのラマン振動シフトと関連付けた。Bingham教授は学生に対して、「あなたの試料が何なのか常に考え、様々な方法を使って確認しなさい」とメッセージを送り、講演を締めくくった。
(MK)

 

(18-03)   Total Body PET 第1回国際会議について

陽電子消滅を利用したPET(断層診断法)は、医療分野や動物科学において大変優れた技術であるが、S/Nの向上及び、撮像時間と放射線被曝の低減とは相反する課題である。
そのためこれまでは患部と見られる領域についてのみ放射性薬剤を投与しその部分についての画像で診断を行ってきた。
これに対し、全身を撮像の対象としたTotal Body PET、特にこれにCTを組み合わせたTotal Body PET/CTスキャナは、患部と予測される部分のみならず全身からの情報を得ることが可能となり、炎症・血管疾患等の情報と関連して癌の検出が可能となるため、病気の理解と治療に革命的なイノヴェーションをもたらすのは確実と言われている。
一方、近年のシンチレータや半導体や電子回路の進歩による感度と速度の飛躍的な向上及び、AIやアルゴリズムの進歩による画像のS/Nの向上等により、低線量かつ短時間でTotal Body PETが可能になりつつある。
このような状況を踏まえてベルギーのヘント(Ghent)大学とヘント大学病院の主催により、第1回のTotal Body PET Conferenceが行われることになった。
会期:2018年6月30日~7月2日
場所:ベルギー中部のGhent(ヘント)の歴史的な中世の雰囲気を残すAugustinian Monastery で開催される。ブリュッセルから30km程度
(YW)