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JNRSメールニュース 第13号 (2017/5/31)

 

目次

(13−01)日本化学会「アジア国際シンポジウム」で放射化学会員3名が招待講演
(13−02) 法令改正による放射性同位元素等の規制の見直し
(13−03)「物質量」という用語がなくなる!?その代替は

 

(13-01)日本化学会「アジア国際シンポジウム」で放射化学会員3名が招待講演

今年の日本化学会第97春季年会(平成29年3月18日、慶應義塾大学・日吉キャンパス)にて、「アジア国際シンポジウム:Asian International Symposium -Inorganic Chemistry and Radiochemistry」が開催され、当学会のメンバー3名が招待講演をした。シンポジウムの内容は、シンポジウムのオーガナイザーを務めて頂いたJAEAの豊嶋氏から「放射化学」誌で、近々詳しい報告があるので、ここでは、シンポジウム開催の経緯と、このシンポジウムの開催母体である日本化学会ディビジョンについて説明したい。
 日本化学会では、専門分野別の20のディビジョンを設置し、会員がそれぞれ専門分野に対応するディビジョン(複数可)に登録している。ちなみに、放射化学会のメンバーで日本化学会に入会している方は、「17. 資源・エネルギー・地球化学・核化学・放射化学」(主査:篠原厚(阪大院理))を第1ディビジョンとして登録して頂くようにお願いしている。その活動の一つとして、表記のアジア国際シンポジウムがあり、各ディビジョンが2-3年に一度を目処にシンポジウムを開催するペースで進めている。ただ、今年で10回目になるが、当ディビジョンはこれまで全く開催していなかった。そこで、今回は、ニホニウムなど話題もあることから無機化学ディビジョンと共同開催の形で初めての開催となった。
シンポジウムは名称の通り、アジアで活躍する若手研究者を対象に、それぞれの分野の国際的な発展を目指したもので、Lectureship Award(LA)をアジアの若手研究者から選考し、その受賞者のKey Note Lecture を軸とした数名の招待講演から構成される。講演者はいずれも40才までの若手研究者である。今回、放射化学の分野からは、Weiqun Shi 博士(Institute of High Energy Physics)がLAとして選ばれ、“Actinide Polyrotaxanes: From Hydrothermal Synthesis to Structural Regulation”という講演をして頂いた。それに続き、金子政志博士(JAEA)、笠松良崇博士(阪大院理)、佐藤望博士(理研)の3人の放射化学会メンバーが、招待講演としてそれぞれの成果を発表した。講演のタイトルは以下のとおりである。詳細は次号の「放射化学」を参照されたい。
Separation mechanism of Am(III) from Eu(III) based on chemical bonding using DFT calculations  (M. Kaneko)
Extraction precipitation experiments of element 104, Rf  (Y. Kasamatsu)
Measurement of the first ionization potential of lawrencium (Lr, Z=103)  (N. Sato)
シンポジウム自体は、非常にすばらしく、無機化学との交流もあり実りあるものだったが、問題は、学会メーリングリスト等を使ってアナウンスしたはずが、放射化学関係の参加者が極端に少なかったことである。以前から日本化学会への参画が問題となっていたが、ディビジョン制度が出来たときに議論があり、第17ディビジョンに寄せ集めではあるが放射化学の分野名を維持できている。最近、ディビジョン経由の各賞推薦も積極的になっているし、放射化学のプレゼンスを示すためにも、積極的な参画を望みたい。
最後に、本シンポジウムは、JAEAの豊嶋氏にオーガナイザーを務めて頂き、LAの推薦やプログラムについては放射化学会理事の北辻氏にもお世話になった。お二方のご尽力に感謝したい。
(AS2)

 

 (13-02)    法令改正による放射性同位元素等の規制の見直し

 2016年1月に行われたIAEAによる総合的規制評価サービス(IRRS)の結果示された勧告を受けて、いわゆる放射線障害防止法など関連3法律を改正する法律が2017年4月までに国会で可決された。同法律は4月14日に公布され、その内容が明らかになってきた。原子力規制委員会が示す資料[1]によると、放射線障害防止法については今後1年以内に一部が施行、3年以内に全面施行され、その際に規則等の変更が行われる。主な変更点は以下の通りである。
1.      放射性同位元素に対する防護措置(テロ対策)要求の新設
 これまで、大数量の密封線源である特定放射性同位元素は危険性が高いとして、線源登録制度によりその受入れから払出しまで、また定期的な報告が義務化されてきた。今回その特定放射性同位元素に対して、放射線障害の防止に係る措置に加えて防護措置の実施を義務付けることになった。新たに大数量の非密封線源についても、この防護措置の対象になることが決まった。防護措置の詳細を規定した特定放射性同位元素防護規程の作成および届出が必要になる。また、特定放射性同位元素の防護に関する業務を統一的に管理する特定放射性同位元素防護管理者の選任等も義務化される。なお、この改正に伴い、法律の名称自体も変わる。新しい法律名は「放射性同位元素等の規制に関する法律」であり、いわゆる原子炉等規制法と同じように規制法となる。
2.      放射性同位元素等の廃棄に係る特例
数十年から数百年の期間を要する放射性廃棄物の処理・処分に当たり、放射線障害防止法のみならず複数の法令由来の廃棄物を併せて処理・処分するために、規制を合理化する必要がある。RI廃棄物について原子炉等規制法の廃棄事業者において処理・処分できるものは、原子炉等規制法下の廃棄物とみなして、原子炉等規制法の下で合理的に規制できるようになる。
3.      事業者責務の明確化
放射線障害の防止及び特定放射性同位元素の防護に関し、安全の確保に係る事業活動の改善等の措置を講じる責務を有することが規定される。原子炉等規制法では既に導入されているが、放射線管理においても自主的、継続的な安全性の向上のための取組(安全文化)が取り入れられることになった。今後は、PDCAサイクルを継続して回していくことが必要になる。
4.      放射線取扱主任者に係る手続きの規則委任化
 放射線取扱主任者の資格試験、定期講習の科目等の見直しを、法律を変更することなく国が行えるようになる。関連して、新規に放射線業務従事者となる者の教育訓練の時間数についても見直しが検討されている。現在、新規に放射線業務従事者となる者の教育訓練は4つの科目で最低時間数が決まっており合算すると6時間以上となっているが、これが大幅に短縮されることも検討されている。
特に、教育訓練の時間数や項目については、本学会会員も直接的に関係するところである。具体的な時間数の決定に向けて、その内容等について関連学協会(日本放射線安全管理学会、大学等放射線施設協議会等)によっても、現在検討が進められているところである。ご意見のある方は、それぞれの関連学協会に問い合わせられたい。
[1]  平成29年度第2回原子力規制委員会資料、https://www.nsr.go.jp/data/000185100.pdf
 (SH)

 

(13-03)  「物質量」という用語がなくなる!?その代替は
 
「物質量」(amount of substance)という用語が登場したのは1971年、国際単位系(SI)の7つの基本量の1つとして定められたときである。我が国での普及の状況は、1982年に高校化学の教育課程に姿を現したことを知ることで、くみ取れるだろう。物質を構成する要素粒子(原子、分子、イオンなど)の個数をアボガドロ定数 で割った数値が「物質量」で、単位はmol、化学の基本の中の基本である。「物質量」登場以前は、「モル数」が使われていた。
日本化学会の国際交流委員会-単位・記号専門委員会(以下「委員会」)は、会員誌「化学と工業」の2016年12月号で、「「物質量」という用語が「化学量」に変わる?」と題する記事を発表した[1]。タイトルに、「?」マークが付されていることからもわかるよう、これは決定事項ではなくIUPACにおいて現在検討中の事案である。
委員会の記事においては、「物質量」ということばを使うことの問題点[2]、代替の用語として何が適切かなどが、IUPACの検討案、アメリカ化学会の化学教育関連論文誌「Journal of Chemical Education」のGiuntaの問題提起的な論文[3]を紹介しながら、言及されている。検討されている用語は、「モル数(number of moles)」、「化学量(chemical amount)」、「要素粒子数(number of entities)」、「化学量論量(stoichiometric amount)」である。
記事本文では委員会の指向は示されておらず、読者の意見を求めたいとなっているが、そのタイトルにある「化学量」に重きが置かれているのかもしれない。紙幅の制限のせいで、委員会の記事では記載が省かれているのだろうが、Giuntaはいくつかの短所も挙げながらもstoichiometric amountを最も適切としている。
この件に関心のあるむきには、Giuntaの論文は一読の価値ありと思う。
[1]  日本化学会国際交流委員会単位・記号専門委員会; “化学と工業” 62巻(12号)、1061 (2016).
[2]  いくつかの問題点が指摘されているが、最大のものは“物質の量”には、言葉の意味として直接“モル”の概念につながらないことで、初学者にとっては、混乱しやすく、取りつきにくい点であろう。
[3]  G.J.Giunta; “What is a Name? Amount of Substance, Chemical Amount, and Stoichiometric Amount” J. Chem. Edu., Vol.93, 583 (2016).
(YS)