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JNRSメールニュース 第1号 (2015/05/29)

目次

(1−01)
奈良新聞で報道;「鑑真は、唐で書写された「唐経四分律」を持って、渡日した」AMS14C年代測定法で確認
(1−02)
106番元素シーボーギウムのカルボニル錯体の合成と特性化に成功
(1−03)
第16回「環境放射能」研究会、開催される
(1−04)
68Ge/68Gaジェネレータの教育利用への展開
(1−05)
東北大学電子光理学研究センターが凝縮系核反応に関する共同研究部門を民間企業と設立
(1−06)
ローレンシウム(Lr)の第一イオン化ポテンシャルの測定に成功
(1−07)
日本テレビNews24で報道された「第11 回 放射能の農畜水産物等への影響についての研究報告会」
(1−08)
新刊紹介 「知ろうとすること。」  早野龍五、糸井重里 著 (新潮文庫、2014.10)

(1−01)奈良新聞で報道;「鑑真は、唐で書写された「唐経四分律」を持って、渡日した」AMS14C年代測定法で確認

奈良時代に日本に渡ってきた高僧・鑑真が、唐から伝えたもののひとつに御経「唐経四分律」がある。仏教の最も重要な規範を書いた御経で、全60巻からなり、争い事が起きたときの解決方法や、規則以上の持ち物を所有したときの罰則などが書かれている。鑑真が、この御経を渡日の際、持参したのか、日本で書いたのかは歴史学的に諸説あった。
名古屋大学の年代測定センターの小田寛貴博士は、御経紙片を化学処理したのち加速器質量分析放射性炭素年代測定法(AMS14C年代測定法)により、御経の書かれた年代を明らかにした。その結果により、御経は鑑真渡日以前に唐で書写され、鑑真によって日本にもたらされた可能性が高いことが示された。以上は2014年7月8日の奈良新聞により報道された。記事には、小田博士の研究は7月5日奈良市内で開催された日本文化財科学会で発表され、注目を集めたことも記載されている。(YS)

(1−02)106番元素シーボーギウムのカルボニル錯体の合成と特性化に成功

自然科学/技術ニュースWEBである「PHYS.ORG」が、2014年9月19日版に、超重元素の化学的研究に大きなブレークスルーがあったことを報じた[1]。同日このニュースは理研と日本原子力研究開発機構(原子力機構)の共同プレスリリースとしても公開された[2]。106番元素シーボーギウムのヘキサカルボニル錯体(Sg(CO)6)が合成され化学的特性が明らかにされたという内容である。日独を主体とした14機関からなる国際共同研究であり、日本側の中心メンバーは、理研・仁科加速器研究センターの羽場宏光氏、原子力機構先端基礎研究センターの浅井雅人氏ならびに佐藤哲也氏である。ドイツチームはヘルムホルツ研究所マインツや重イオン研究所などのメンバーである。
理研RIビームファクトリー(RIBF)の重イオン線形加速器(RILAC)からのネオンイオンビーム(Ne-22)とキュリウムターゲット(Cm-248)を用いてSg-265(寿命;~10s)を製造し、気体充填型反跳分離器(GARIS)を用いた質量分離後、Sgのカルボニル錯体の化学合成とガスクロマトグラフ法による化学分析を行った。以上の実験から、Sgが、同族元素のモリブデンやタングステンのように、揮発性のヘキサカルボニル錯体を形成することを見出した。実験および理論計算から得られた物理化学定数から、Sgが周期表の第6族元素に特徴的な化学的特性を持つことを実証した。この研究成果はScienceに報告された[3]。
元素の発見・製造、化学的特性化は、現代科学的「元素」が登場して以来、現在に至るまで、化学者の夢であり続けた。その夢の最先端研究が、日本放射化学会の科学者の放射化学的手法による貢献からなされたことは素晴らしいことである。
本記事に登場するRIBF、RILAC、GARISの詳細については、羽場氏自身の筆による本学会和文誌「放射化学」第30号(2014.9)の総説「GARISが拓く新元素の化学」が参考になるだろう。
[1]: http://phys.org/news/2014-09-milestone-chemical-superheavy-elements.html
[2]: http://www.riken.jp/pr/press/2014/20140919_1/digest/
[3]: J. Even et al., Science, Vol.345 (2014) 1491-1493.
この論文の著者のうち、日本の研究機関の所属者だけ抜き出すと、以下のとおりである(掲載順)。多くは本会会員である。
羽場宏光1、浅井雅人2、佐藤哲也2、黄明輝1、加治大哉1、金谷淳平1、金谷佑亮2、工藤裕生1、宮下直2,3、森本幸司1、森田浩介1,4、村上昌史1,5、永目諭一郎2、大江一弘5、住田貴之1、武山美麗1、田中謙吾1、豊嶋厚史2、塚田和明2、若林泰生1、山木さやか1、6
1;理研、2;日本原子力機構、3;広島大学、4;九州大学、5;新潟大学、6;埼玉大学 (YS)

 

(1−03)第16回「環境放射能」研究会、開催される

2015年3月9日ー11日の日程で高エネルギー加速器研究機構にて第16回「環境放射能」研究会が開催された。参加者は190名となり、口頭で23件とポスターで54件の合計77件の発表に加え、2件の特別講演と1件の依頼講演があった。特別講演では高エネ研の桝本和義先生より「放射能と加速器にかかわって」というタイトルで、金沢大学の山本政儀先生より「放射能と歩んだ40年 ー低レベル放射能実験施設と共にー」というタイトルで、これまで両先生が取り組まれた御研究の成果を紹介していただくとともに、我々が研究者として科学や社会に対してどのように向かい合うべきかを考えるためのヒントを与えていただいた。依頼講演は環境省の水・大気環境局 水環境課の長澤沙織氏より「水質汚濁防止法に基づく水環境中の放射性物質モニタリングについて」というタイトルで、環境省による河川や湖沼水の放射性物質モニタリングの現状や今後の取り組みについて紹介があった。
口頭発表およびポスター発表では、東電福島第一原発事故に関連する発表が多数を占めていたが、事故以前から継続して行われている基礎研究やモニタリングに関する発表もあり、バラエティに富んだ内容であった。原発事故以降はそれまで環境放射能研究に直接関わっていなかった研究者や地方自治体の職員の方などの参加も多くなり、様々な目的や観点からの取り組みに基づき、多くの測定結果やモデル計算の結果などが報告されてきた。今回の研究会では事故から4年が経過しており、対象核種の多様化、データの蓄積、分析手法の高度化、モデル計算の厳密化が進み、状況の把握から事象の解明に近づきつつあるという印象を受けた。また、専門分野を横断する複合的な取り組みが試みられ、新たな研究領域として確立されつつある研究発表も見受けられた。
最終日には研究会奨励賞の授賞式が行われ、今回は福島内水試の冨谷敦氏による「福島県の湖沼に生息する魚類の放射性セシウム濃度」、名大工の杉浦宏樹氏による「ラドン長距離輸送モデルの冬期東アジア域における濃度過小評価の要因検討」、首都大院都市環境の横田かほり氏による「原木マイタケ栽培環境の放射性Cs分布と栽培再開への試み」、京大院工の田中徹氏による「放射性エアロゾル製造装置の開発」の4件の発表が選ばれた。(KT)

(1−04)68Ge/68Gaジェネレータの教育利用への展開

最近、元理化学研究所の野崎正(現北里大学理学部物理学科 客員研究員)を中心として、68Ge/68Ga Generatorを教育に利用しようとするプロジェクト(Triple G project for Triple R education)が進行中である。Triple Gとは頭文字の3つのGに由来するが、世代(Generation)の垣根(Gap)を超えた世界規模(Global)な取り組みに育てるという願いも込められている。対象のRとはもちろん放射能(Radioactivity)、放射性核種(Radionuclide)、放射線(Radiation)を指す。現在の放射線教育は小学校から取り入れられ、放射線の特徴を実験的に学ぶ。また大学等で行う通常の放射化学実習の多くは、化学分離操作の習熟やトレーサーの挙動を理解することである。Triple Gプロジェクトでは68Ge/68Gaジェネレータを実験の中心に位置づけ、ジェネレータを自ら製作し、溶離液やカラムそのものの放射能を測定し、“放射能”という現象の本質を理解することを目指す。さらに溶離液を出発点として各種化学実験や測定実験に応用可能な教育プログラムも同時に提供する予定である。最終的には、自然界における放射能という現象、その由来となる放射性核種の存在、そして壊変によって放出される放射線というそれぞれの関係性を理解できるような教育を目指している。
野崎らによれば、数あるジェネレータの中でも68Ge/68Gaは教育実験に最適であるとのこと[1]。68GeはEC壊変により68Gaに壊変する。その後68Gaがβ+により安定な68Znに壊変する。68Geの半減期が271日、68Gaの半減期が67分であるため、実験は短時間で終了し、また放射平衡状態をすぐに作りやすく、カラムも長期間利用できる。さらにγ線を測定できる装置は、68Ga由来の対消滅放射線(511keV)を主に検出可能(68Geはno γ)であるため、放射能の成長現象のみを測定可能である。
これまでに、北里大学および金沢大学の保健学関連学生を対象とした放射化学実習での取り組みが進んでいる[2]。学生へのアンケートの結果によると、ジェネレータを使った実験に対する印象は良好とのこと。今後は徳島大学等での教育利用が計画されている。
このプロジェクトは将来的には高校生や大学の文系学部の学生に対しての普及推進を目指しており、広報や誘致活動にも力を注いでいる。読者の中で、このプロジェクトに興味がある(または68Geと実験書を入手希望)の方がいらっしゃれば、下記の放射化学会メンバーに問合せされたい。
問い合わせ先:阪間稔(徳島大学)、薬袋佳孝(武蔵大学)、鷲山幸信(金沢大学)
[1]: 野崎正, 68Ge-68Ga Milking Generator の教育利用, Isotope News, 2009 年 6 月号, 2−5.
[2]: 鷲山幸信他, 放射化学教育のための68Ge/68GaジェネレータープロジェクトとRI実習への応用, 第70回日本放射線技術学会学術総会,神奈川県横浜市, 2014年4月10-13日(KW)

(1−05)東北大学電子光理学研究センターが凝縮系核反応に関する共同研究部門を民間企業と設立

東北大学は電子光理学研究センター内に新たに「凝縮系核反応研究部門」を4 月 1 日に設立し、凝縮系核反応の基礎研究と応用開発研究を同時に開始すると発表した。凝縮系核反応を掲け?た大学の研究部門は国内初。この共同研究部門では、凝縮系での異常な熱発生現象や核変換現象における核反応生起に関する基礎データを取得し、凝縮系に於ける超低エネルキ?ー核反応の理解深化を図り、これらの基盤の上に、新しいクリーンエネルギーの実用化を目指す応用開発研究に取り組むとのことである。「凝縮系核反応」とは、1989 年に発表された「常温核融合」に端を発し「固体内核反応」、「低エネルギー核反応(LENR)」、「CANR」などという名称て?継続して研究か?続けられてきた「凝縮系中での超低エネルギーで観測される核反応」を意味し、原子や電子が多数集積した状態において、核反応現象誤生じることを意味する。これまで世界中で研究が続けられてきたが、未だに、現象を理論的に説明できていない。
現象が未知の核反応によるものであると証明することができれば、原子核反応の概念に大きな変革をもたらし、従来の学術理論を覆すことになり、「凝縮系核反応」は、社会的にもクリーンな原子核エネルギーとして、将来の産業構造に大きな変化をもたらすことが想定される。
出典:東北大学プレスリリース:http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20150330_01web.pdf
(SH)

(1−06)ローレンシウム(Lr)の第一イオン化ポテンシャルの測定に成功

日本原子力研究開発機構先端基礎研究センター重元素核科学研究グループの佐藤哲也研究員、浅井雅人研究主幹らは国際共同研究により、103番元素ローレンシウム(Lr)の第一イオン化ポテンシャルの測定に世界で初めて成功した。
この成果は、Nature(2015年4月9日号)に掲載され、同誌上の「News&Views」で紹介されると同時に、同号の表紙を飾った。
http://www.nature.com/nature/journal/v520/n7546/full/nature14342.html
アクチノイドや超アクチノイド元素などの重元素では、非常に大きな核電荷による大きな相対論効果のために基底状態における電子構造が同族の軽い元素と異なる可能性がある。基底状態の最高占有オービタルはランタノイド元素のLuでは5dであるのに対し、同族のLrでは7pであると予測されている。従って、実験的にLrのIPを正確に精度良く求めることは、重元素における相対論効果の程度を正しく見積もることができるようになり、理論の精密化に貢献をすることになる。日本原子力機構のタンデム加速器施設において、249Cf(11B, 4n) 反応により生成した56Lr(半減期27秒)をガスジェット搬送により表面電離型イオン源に導きイオン化し、質量分離の後、α測定して、イオン化効率を求めた。イオン化効率は第一イオン化ポテンシャル(IP)に依存することからLrのIPを求めている。
得られたLrのIPは4.96(+0.08/-0.07) eVと極めて低い値であり、これはランタノイドの15番目のLuでも見られる現象であり、アクチノイドも15番目のLrで終わることを初めて実験的に示たことにもなる。また、新たに計算した理論値は4.963(15) eVであり、実験値と非常によく合っている。この計算では7p1/2のエネルギーが6d3/2よりも低くなっており、ランタノイドのLuの場合とは異なっている。すなわちLrが周期表から単純に期待される電子配置と、異なる電子配置をとるであろうと示唆している。(HK)

(1−07)日本テレビNews24で報道された「第11 回 放射能の農畜水産物等への影響についての研究報告会」

2015年4月25日(土)に、東京大学農学部(文京区弥生)で、福島第一原子力発電所事故から放出された放射性物質が、森林や農業に与える影響についての研究報告会、「第11 回 放射能の農畜水産物等への影響についての研究報告会」が行われた。このことが、日本テレビNews24で報道された。200名ほどの参加者があったという。
News24の報道概要(日本テレビ)
http://www.news24.jp/articles/2015/04/26/07273795.html
研究報告会の詳細(東京大学)
http://www.a.u-tokyo.ac.jp/rpjt/event/20150425.html
(YS)

(1−08)新刊紹介「知ろうとすること。」 早野龍五、糸井重里 著 (新潮文庫、2014.10)

著者の一人である早野龍五氏にとっては、本書は文庫本デビュー作となるのだろう。しかし、「早野龍五」ときけば、日本放射化学会の会員のかなりの数が、その業績の概要を思い浮かべることができる高名な原子核物理学者にして東京大学の現役の教授である。本書の著者紹介欄のとおり、早野氏の代表的業績といえば、反陽子ヘリウム原子、反水素原子の研究である。これは若くしてKEK助教授、(のちに東大助教授・教授)に就任した後のグループリーダーとしての仕事であるが、大学院学生として参加して大きな貢献をしたもので国際的評価の高いものに、μSR法(ミュオンスピン回転・緩和・共鳴法)の実験法の確立とその応用としての原子核物性研究もある。
早野氏の物理学者としての経歴と専門からして、2011.3.11の震災・津波による福島第一原子力発電所事故から放出された放射能の測定に自らの研究時間を割いて取り組んでいる、と知ったとき意外な思いもあった。その取り組みについて、糸井重里氏と対談しながら紹介し、その思いを語るという形式の書籍となっている。 糸井氏は早野氏の話を引き出し、合いの手を入れる役目に徹しているように思えた。「なぜ?早野氏が…」知ることができるのかもしれない、本書を手にとった理由である。一読を薦めたい。(YS)