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JNRSメールニュース 第2号 (2015/07/31)

目次

(2−01)
中性子過剰な核種110個の寿命を一挙に測定: 重元素合成過程の理解に貢献
(2−02)
大阪大学・核物理研究センター、世界最大強度のDCミュオンビームラインから表面ミュオンの取り出しに成功
(2−03)
EXAFSを用いたCsの粘土鉱物への吸着論文が高被引用文献としてマークを受ける
(2−04)
理研、食品の非破壊放射能測定を実現する低コスト測定器を開発
(2−05)
コンプトン散乱を利用したガンマ線可視化の話題
(2−06)
IAEA公式スマホアプリ:Isotope Browserの公開
(2−07)
MRCX会議から見えた米国の放射化学;核鑑識という新セッション など
(2−08)
ヘリウムガス不足は解消、今度はネオンガス?
(2−09)
老朽化した排水系からの漏洩・汚染事故の予防
(2−10)
読売新聞社説の示した懸念;研究用原子炉の停止のもたらすもの
(2−11)
日本放射化学会企画「放射化学の事典」発刊まで秒読み。2015年会(仙台)開催時を目処に
(2−12)
書籍紹介 原発事故環境汚染 福島第一原発事故の地球科学的側面
中島映至、大原利眞、植松光夫、恩田裕一 [編]  東大出版会 (2014年9月初版)
 
 

(2−01) 中性子過剰な核種110個の寿命を一挙に測定: 重元素合成過程の理解に貢献

元素は、人間が物質をみる場合に直感的にイメージできる基本構成物である。全ての元素の濃度比は、地球や生命の誕生や進化の方向性を支配したし、もっと身近な例でいえば、我々に人間にとって必須な元素と毒性元素の違いは、この元素の濃度比と進化の最終結果の1つである。宇宙における元素合成過程は、太陽を含む様々な星に含まれる核種の存在度と、関連する核種の性質(質量数、陽子数、中性子数、半減期(寿命)など)から理解されてきた。主要な重元素合成過程には、s過程とr過程があるが、このうちr過程は、一度に多くの中性子を捕獲して進む元素合成過程であり、不安定な放射性核種を経由して重元素を合成することができる。
しかしその解析には、放射性核種の寿命データを整備することが必須である。
ジュセッペ・ロルッソ客員研究員、西村俊二先任研究員、櫻井博儀主任研究員ら理研を中心とする国際共同研究グループEURICA(ユーリカ)は、理研の重イオン加速器施設(RIビームファクトリー)を利用して、質量数Aが100~140の中性子過剰核種の寿命測定を行った[1,2]。特にこの研究は、宇宙における元素合成時にr過程が重要となる魔法数近傍の核種のうち、中性子魔法数N=82付近の核種にターゲットを絞って行われた。また実験では、理研が独自開発した高性能寿命測定装置「WAS3ABi(ワサビ)」が大きな威力を発揮した。その結果、世界で初めて寿命(半減期)測定に成功した40個の核種を含む110個の核種の寿命データを一挙に得ることに成功した。
この寿命データによると、スズ、アンチモン、ヨウ素、セシウムなどの存在度は、r過程がどの程度の時間継続して起きたかに依存することが予想される。そのため、この結果に基づき今後さまざまな星でこれらの元素の組成比を調べることにより、r過程が起きた環境を予想することが可能である。近年の研究では、これまで主要な環境と思われていた超新星爆発以外にも、中性子星同士の融合による高温・高密度環境下でr過程による重元素合成が起きた可能性も示唆されている。
地球や我々の身体を作っている元素達がどうやって作られたのか、元素が生まれた過程にはまだまだ謎が多く、その解明は放射化学が大きな役割を果たせる分野である。なお魔法数など、この分野の最新の知識を得るには、上記研究を推進する櫻井氏の近著[3]も参考になる。
[1] G. Lorusso et al., Physical Review Letters, 2015, doi: 10.1103/PhysRevLett.114.192501.
[2] http://www.riken.jp/pr/press/2015/20150512_1/#note2
[3] 櫻井博儀、元素はどうしてできたのか -誕生・合成から「魔法数まで」-、PHPサイエンス・ワールド新書、2013.
(YT)
(2−02) 大阪大学・核物理研究センター、世界最大強度のDCミュオンビームラインから表面ミュオンの取り出しに成功

2015年6月29日夜、大阪大学・核物理研究センター(RCNP)が、表面ミュオン取り出しに成功したことを、日本中間子科学会のメールニュースが速報した(情報源を大阪大学大学院理学研究科、佐藤朗氏とする発信)。
RCNPに建設されたMuSIC (MUon Science Innovative muon beam Channel)は、連続時間構造(DC)を持つミュオンビームを提供する日本初のミュオン施設である。MuSICに関わる研究者たちはDCミュオンビームの特徴を活かしたミュオン科学・技術の展開を目指している。組織的には、大阪大学RCNPと大阪大学院理学研究科が中心となって、高エネルギー加速器研究機構(素粒子原子核研究所、物質構造科学研究所)との連携体制で進められている。
http://www.rcnp.osaka-u.ac.jp/RCNPhome/ja/news/detail.php?id=40
2015年2月には、負ミュオンを銅板に停止させた際に発生する特性ミュオンX線のゲルマニウム検出器による測定にも成功している。ミュオンX線を使った高精度の実験が可能となっている。
大阪大学で2015年9月4~5日、MuSICで展開されるミュオン科学についての研究会が開催される予定である。この研究会の世話人の一人は、日本放射化学会会員であり、ミュオンX線による元素分析法の開発・応用分野では第一人者である二宮和彦氏(大阪大学大学院理学研究科)である。(YS)

(2−03) EXAFSを用いたCsの粘土鉱物への吸着論文が高被引用文献としてマークを受ける

広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻の高橋嘉夫教授(現:東京大学大学院理学系研究科)らの共同研究グループはEXAFSを用いた分光手法等により、Csの粘土鉱物への吸着に天然腐食物質が及ぼす影響と、粘土鉱物の膨潤性の有無がCsの吸着挙動に違いを生じさせる事を明らかにした。この両因子は表層土壌や堆積層中のCsの移行挙動や生物取込み作用に影響を及ぼす重要な因子と見られる。
 この成果はGeochimica et Cosmochimica Acta誌135巻(2014年6月15日発行)の49-65ページに掲載され、トムソンロイター社調べによると、2015年1月・2月時点で高被引用文献 (アカデミックフィールドの上位 1 % にランクされる十分な引用)としてマークされた。
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0016703714001872
 土壌中でのCsの主要な吸着媒体は粘土鉱物であり、この吸着反応を天然腐食酸(HA: Humic Acid)の存在が阻害するという観察結果がこれまで多数報告されていたが、そのメカニズムについては不明な部分が多かった。今回、本研究ではHAが粘土鉱物に付着しこれによって、Csイオンがfrayed edgeサイトや層間サイトといった吸着サイトへのアクセスがブロックされる事により吸着反応の阻害が起きているということを、バッチ実験やEXAFSによる分光分析の結果より明らかにした。
本研究に対して世界中より高い注目が払われている事は、福島第一原子力発電所事故より4年が経過した今日でも、環境中での事故由来放射性物質の挙動に対して高い関心がもたれている事を示している。(AK)

(2−04) 理研、食品の非破壊放射能測定を実現する低コスト測定器を開発

理化学研究所グローバル研究クラスタEUSOチームのカソリーノ・マルコ チームリーダーらの共同研究グループは、食品に含まれる放射性カリウムと区別して、原発事故に由来する放射性セシウムを非破壊で測定できる高感度、大面積、低コストな放射能測定器を開発した。従来の測定器はシンチレータが底面にあり、食品の形によっては正確な測定が難しいという問題があったため、食品をミキサーにかけ、小さく破砕してから測定する作業が必要だった。共同研究グループは、食品を破砕せずに測定するために、食品を包み込むようにシンチレータを配置する設計を考案した。まず、低コストで成形が比較的簡単なプラスチックシンチレータ(PS)を検出器として用いることを検討したが、エネルギー分解能が低く、天然由来の放射性カリウムと原発事故由来の放射性セシウムの区別が困難であった。そこで、PSからの発光シグナル数(光子数)の分布を詳細に調べた結果、放射性のカリウムとセシウムでは、ガンマ線のエネルギーの差によって光子数の分布に有意な差があることを確認し、この形から、放射性のカリウムとセシウムの割合を算出する手法を考案した。この手法を適用し円筒形のPSを配置した放射能測定器「LANFOS(Large Area Non-destructive Food Sampler)」を開発した。
LANFOSの技術を用いることで、箱詰めされた食品をそのまま計測できる大型の放射能測定器を安価に制作することが可能となり、出荷時の全品検査の実現が期待できるとのことである。
出典:http://www.riken.jp/pr/press/2015/20150309_1/
(SH)

(2−05) コンプトン散乱を利用したガンマ線可視化の話題

ガンマ線を可視化したい、つまり現場写真の上にガンマ線の強度を等高線等で表示すれば、汚染状況を瞬時に把握することが可能となり、被曝の低減につながる。これを実現するためには従来サーベイメータなどで測定しその結果を画面に落とし込んでいた。この作業効率の向上と測定者の被曝の低減のために考えられたのがピンホール型ガンマカメラであった。しかしながら、コリメータで囲まれた検出器をXY方向にスキャンさせて線量率分布を計るこの方式では測定に膨大な時間を要することと、遮蔽体が30kgにも及ぶため、実用化には至らなかった。他方、ピンホールを多数として測定し乱数を用いて演算を行う事によってスキャンが不要とするものも試みられているが、重量は同じである。
ところが、福島第一発電所事故に伴う高線量の汚染に対応するため、急遽見直され各社から相次いで新製品が発表された。高線量であればスキャンに要する時間は少なくて済み、実用域であるというわけである。
一方で、宇宙におけるガンマ線の方向特定のため等に開発されたコンプトンカメラは、入射ガンマ線がシンチレータ等でコンプトン散乱を受け、引き続いてホトダイオード等で散乱線を検出することにより、入射ガンマ線の方向を統計的に得るもので(参考1))、コリメータが不要であることから、数kg程度と非常に軽量であり、全方向同時観測が可能などの利点を持つため、特に福島由来の汚染場所の特定などに有効と考えられ普及が始まったところである。欧米では既に実用化されており、原子力施設ばかりで無く感度の良さから研究所や病院における利用も期待されている。
近年CdZnTe検出器の特性向上に伴い、これを用いたコンプトンカメラが開発され、一段目のシンチレータが不要となるなど、各社とも特性の向上、軽量化、省電力化等、フィールド測定を念頭に置いた進化が目覚ましく、期待されるところである。
参考:
1) コンプトンカメラhttp://www.astro.isas.jaxa.jp/~takahasi/Detectors/Compton/Compton.html
2) ピンホールカメラhttp://www.hitachi-aloka.co.jp/products/data/radiation-013-gamma_camera
3) ピンホールカメラhttp://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2012/08/0802.html
4) ピンホールカメラhttp://www.toshiba.co.jp/about/press/2011_12/pr_j1302.htm
5) コンプトンカメラhttps://www.hamamatsu.com/jp/ja/news/products/20130910000000.html
6) コンプトンカメラhttp://fujitok.co.jp/products/index/52

(2−06)  IAEA公式スマホアプリ:Isotope Browserの公開

先日発刊された放射化学第31号(2015.3.31)の表紙に掲載されたため、既に多くの方がご存知と思うが、iPhoneおよびAndroidスマートフォン・タブレットユーザー向けIAEA初の公式アプリ「Isotope Browser」が公開されている。これはthe Nuclear Data Section of the International Atomic Energy Agency (IAEA NDS, 国際原子力機関データ課)のMarco Verpelliが作成したアプリである。
このアプリには実に4000以上の核種のデータ(半減期、崩壊分岐比、放出放射線の種類と放出率等)が搭載され、“インターネットに繋げることなく”それらの情報を簡単に表示することができる。アプリを立ち上げると、核図表や周期表、原子番号や元素記号を入力する画面が現れる。知りたい核種を入力して「Go」ボタンをタッチするだけで、その核種に関する核データを入手できる。周期表を選択した場合は、気になる元素をタッチするとその同位体が表示され、あとはその中から核種を選べば良い。核図表は壊変様式毎に色分けされており、拡大することで個々の核種の情報を縦覧できる。特定の核種の情報を見たければその核種をタッチすることで、前述の核データを入手できる。さらに「Advanced」機能を駆使すれば、ある特定の壊変様式や半減期、放射線のエネルギーの核種のみを抽出でき、それを核図表に表示することも可能である。
核データ中の放射線は主要なエネルギーと放出割合を表示しており、たいていのものはカバーできる。とはいえ全ての放射線を網羅しているわけではないため本格的な研究等には不向きである。しかし、このアプリはより興味を持った人のために、核データをスクロールしていった最後にIAEA NDSへのWebリンクを準備してあり、これをタッチすることでより詳細な情報を入手することができる(要インターネット環境)。
必要最小限の基本情報に絞ることで、従来のTable of Isotopesの様な分厚い本を、持ち運び自由なスマホの中に搭載可能としたことは、まさに核データ普及活動のブレイクスルーである。しかも無料。50年来古今東西の原子核データを収集・整備してきたIAEA NDSが満を持して公開したインタラクティブなアイソトープの百科事典は、放射化学のみならず様々な分野の人にとって(とりわけ、放射能を学び始めた初学者に)おすすめのアプリである。詳細は下記IAEAでの公式発表webリンクを参照されたい。そして、是非ご自身のスマホやタブレットにこのアプリを加え、核データの世界を楽しんでみてはいかがであろうか。
・On the Spot: IAEA Launches Its First Android App-Isotope Browser
https://www.iaea.org/node/3570
・Nuclear Data on the Go: The IAEA Nuclear Data App Now Available on iOS
https://www.iaea.org/newscenter/news/nuclear-data-go-iaea-nuclear-data-app-now-available-ios
(KW)

(2−07) MRCX会議から見えた米国の放射化学;核鑑識という新セッション など 

今年(2015年) 4月に開催されたMARCX(Methods and Aplplications of Radioanalytical Chemistry X)で得た情報について少し紹介したい。この会議は3年ごとにハワイで開催されているが、今年の本会議で気が付くことは、まず、nuclear forensics(核鑑識)というセッションが増えたことだろう。内容は科学捜査、核鑑識であり、核テロを想定して環境中の放射性核種の分析や特定をする分野である。技術開発の必要性もさることながら、この分野を担うことができる放射化学の研究者が激減していることを受け、オバマ大統領により、2018年までに放射化学のPh.D.取得者を40名排出する予算がついたとのことである。この件は日本では原子力研究開発機構の核不拡散・核セキュリティ総合支援センター(ISCN)でも調査研究が行われており、会議にも担当者が出席していた。
 その他、MARCXでは、昨年64歳という若さで亡くなった米国カリフォルニア大学バークレイ校のHeino Nitche教授を偲んでというタイトルの付いたアクチニド、ランタノイド、フィッションプロダクト分離についてのセッションが設けられた。114番および117番元素の確認に携わったことでも知られるNitche教授は偉大な放射化学者であっただけでなく、放射化学者の育成にも情熱を燃やしていた。数年前の国際会議では、昼食をとりながらの講演で、彼は米国の放射化学者数は減少の一途を辿っていたものの、近年は減少傾向はなくなったと言っていた。オバマ大統領の決断の際には彼の意見が反映されていたのかもしれないと思っている。(TMN)

(2−08) ヘリウムガス不足は解消、今度はネオンガス?

2012年の秋ころ、オイルショックならぬ「ヘリウムパニック」が勃発した。
突然ヘリウムガス、液体ヘリウムが入手できなくなった。2012年は、アメリカ合衆国が、世界の生産量の約76%を占めていて、日本は必要需要量の98%をアメリカからの輸入に頼っていた。ヘリウムは天然ガス採取の副産物として得られるが、天然ガス田プラントの事故、新興国のヘリウム需要の増加が重なったということが、パニックの直接的原因のようである。
 記者はヘリウムガス(7立米)ボンベ1本を数年に1回詰め替え必要とする小規模ユーザーである。2013年春にヘリウムガスの購入の時期がきて、いつものよう(とっても3年ぶり)に某ガス会社(大手)に電話したが、「ヘリウム不足の状況が国際的に続いている。大手ユーザーが優先なので、申しわけないが、いつまで待ったら良いかも言えない状況だ」という。「ヘリウムガスがないと稼働できない装置がある。ヘリウムの代替になるガスは何だろう」と何回も懇請・相談し、その結果7立米ヘリウムを都合してもらい事なきをえた。先日(2015年6月)ヘリウムボンベの詰め替えが必要になって、恐る恐る発注の電話をしたところ、何の問題もなく受け付けられ数日後納品された。価格も僅かな上昇ですんでいた。 
 2012年のパニックに懲りて、日本のガス会社は、様々な国に分散発注をするようにしていること、2013年カタールに新しい天然ガスからのヘリウム採取プラントが稼働しだし、パニックは解消されたとのことである。 [1]
 現在はネオンガスが不足しているようである。研究者の友人(ネオンガスを使用)からの情報によれば、ネオンガスが上述の2012、2013年のヘリウムパニックの状況にある。ヘリウムはユーザーも多く対策も比較的早く、あるいは融通もうまくやれたが、ネオンはユーザーも少なく、解決への道は険しいかもしれない。[2]
[1]. http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2014fy/E003867.pdf
  ヘリウムを含有する天然ガスに関する調査報告書 (2014) 発行: 経済産業省製造産業局化学課、報告書作成委託先:三菱UFJリサーチ&コン
サルティング株式会社
[2]. http://www.cryogas.com/pdf/Link_2014RareGasesMktReport_Betzendahl.pdf  The 2014 Rare Gases Market Report (2004) R. Betzendahl
(YS)

(2−09) 老朽化した排水系からの漏洩・汚染事故の予防

放射線障害防止法第36条の2第1項で、各事業所の放射線取扱主任者は3年以内に1回の、登録機関が行う定期講習を受講することが義務づけられている。このことは本会の会員の多くが知っていることであり、相当数の方は実際に受講している。かくいう本稿の記者も先日(2015年7月上旬)受講した。講習内容のひとつに、放射性同位元素等取扱事業所における事故例があった[1]。
24~26年度の3カ年、12件の放射性同位元素事故が原子力規制委員会(24年度は、前所管・文部科学省原子力安全課)に届けがあった。うち紛失が4件、汚染が8件である。汚染8件のうち4件が、排水系の老化/劣化による破損によるものであることに規制庁は注目・懸念している、ということであった。現在稼働されている非密封放射性同位元素等取扱事業所の排水施設は40~50年前に造られたものが多いのではないか。設計に携わった世代からみれば孫、子の世代が第一線の主任者、作業従事者となっている時代である。地中に埋設されている排水系部分に関しては、保守点検は簡単ではないだろうが、管理者としては留意すべきことであろう。
[1] 公益財団法人原子力安全技術センター;「放射性同位元素等事故例 放射線障害防止法関係(昭和33年~平成27年2月)」(講習会にて配付の冊子)   (YS)

(2−10) 読売新聞社説の示した懸念;研究用原子炉の停止のもたらすもの

「研究用原子炉 長期停止で心配な人材の枯渇」と題する社説が、読売新聞2015.6.19に掲載された。“このままでは、原子力発電所の安全性の向上や廃炉に必要な人材が枯渇しかねない。”が本文の冒頭の一文であるが、タイトルとともに、主張の問題提起として簡潔的確である。結文は、“原発の再稼働や新増設、福島第一原発の廃炉事業は、優秀な人材なしには成り立たない。”である。この問題にいくらかの関心とバックグラウンドのあるもの、たとえば日本放射化学会・会員であれば、この一句、二文で、社説の概要は推し量ることができるだろう。結語にいたるまでに、研究用原子炉の役割、存在意義と、置かれている現況が述べられている。内容および主張自体は、本会会員には特に耳新しいものではないだろう。このような懸念が、新聞社説というかたちで、日本社会に発信された意味は大きいかもしれない。
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20150618-OYT1T50191.html?from=ytop_ylist
(YS)

(2−11)日本放射化学会企画「放射化学の事典」発刊まで秒読み。2015年会(仙台)開催時を目処に

2009年スタートのこの企画は、現在(2015年7月下旬)執筆者による最終校正の段階にある。朝倉書店から、今秋、2015日本放射化学会年会/第59回放射化学討論会(仙台)の開催とタイミングを合わせての発刊が現時点の予定である。海老原充前会長と永目諭一郎元会長が共同代表編集者であり、各章の分担編集者、執筆者の多くが本学会員というものである。「放射化学の事典」の具体的な中身、その評価については発刊後、本メールニュースの記事として会員諸氏に届けられることになるであろう。(YS)

(2−12) 書籍紹介 原発事故環境汚染 福島第一原発事故の地球科学的側面
中島映至、大原利眞、植松光夫、恩田裕一 [編]  東大出版会 (2014年9月初版)

福島第一原子力発電所事故により環境中に放出された放射性物質の拡散・移行を主題とし、陸域・大気・海洋における放射性物質の動態について議論されている第1部、防災インフラの現状と課題や今後の整備について検討する第2部、そして事故後の科学者の行動や対応について振り返り今後についての提案をまとめた第3部から成る。事故後から今日に至るまでのさまざまなコミュニティの活動軌跡、これまでに得られた科学的知見、そして大規模環境汚染に直面した研究者の想いなど、各分野の専門家らが共同執筆した集大成。科学者としてのみならず、一市民としてぜひ読んでおきたい一冊。
本書については放射化学31号に掲載の書評(高橋賢臣著 )も参照されたい。
主要目次
はじめに
【第1部 環境中での放射性物質の動態】
第1章 序論——東京電力福島第一原子力発電所事故と放射線・放射能の基礎
第2章 放射性物質の放出量の推定、  第3章 大気への拡散
第4章 全球への輸送、 第5章 海洋への拡散、 第6章 陸域への放射性物質の拡散と沈着
【第2部 防災インフラの整備と課題】
第7章 モニタリングシステムの整備、 第8章 放射性物質の拡散モデリング、 第9章 除染、 
【第3部 福島第一原発事故からの教訓と課題】
第10章 科学者による緊急の取り組み、 第11章 福島第一原発事故にかかわる緊急活動とメッセージ
用語集、  索引
(AS)