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JNRSメールニュース 第15号 (2017/10/2)

 

目次

(15-01)「環境放射能」研究会を中心とした福島原発事故報告書
(15-02)アインスタイニウムを用いた研究が日本で開始
(15-03)本会名誉会員、NHKラジオで、入市(広島)被爆体験、放射化学、ホットアトム化学、核兵器を語る

 

(15-01)   「環境放射能」研究会を中心とした福島原発事故報告書

「東京電力福島第一原子力発電所事故以降の5年間における環境放射能研究のとりまとめ」と題した報告書がKEK放射線科学センターの別所光太郎准教授、松村宏准教授、三浦太一教授らの編集により発行された。
本報告書は、福島原発事故より10年以上も前、平成11年度から高エネルギー加速器研究開発機構で毎年開催されている、「環境放射能」研究会での発表の中で、特に、福島原発事故発生後の第13回~第18回を中心に纏めたものである。この研究会自体は1999年のJCO臨界事故を受けて始まったものであるが、環境放射能に関する放射化学的な面からのアプローチも多く、高い評価を受けている。この研究会の参加者数は毎回200人ほどであり、研究発表は講演だけでなく、ポスター発表もあり、毎回活発な議論が飛び交っている。参加者も研究者だけでなく、自治体関係者らなども集まってきている。
具体的な調査結果について、大気・水・土・森林を含む「場」および、生物や農作物を含む「生物」の観察結果に分け、この5年間に研究会で報告されてきたことを中心に、環境放射能分析や動態について纏めている。キーワードから見ると報告の中心は、当初は何と言っても土壌を含むCsに代表される放射性核種のモニタリングが大きな関心事であったものの、次第にエアロゾル、河川や野生生物など、環境全体に関心が広まってきている。これは土壌に吸着した放射性セシウムが殆ど動かないことが次第に明らかになってきたため、関心事が「場」だけでなく「生物」へと広がってきたようにも受け止められる。
冊子は以下のサイトから誰でも無料でダウンロードすることができる。
https://lib-extopc.kek.jp/preprints/PDF/2016/1624/1624003.pdf
環境における福島第一原発事故の影響は継続的な長期な調査が必要である。本研究会の持続的に継続されていくことを期待したい。       
(TMN)

 

 (15-02)    アインスタイニウムを用いた研究が日本で開始

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉敏雄、以下「原子力機構」)では、米国オークリッジ国立研究所との協力で、0.5μgのアインスタイニウム(原子番号99番、254Es、T1/2=276 d)が入手できることになり、次のような研究が計画されている [1]。トレーサーでない量のアインスタイニウムを用いての研究は日本で初めてである。
<研究計画1>
 原子番号100番元素フェルミウム以上の領域では、原子核が持つ中性子の数が一つ変わるだけで、核分裂のメカニズムが劇的に変化することが知られているが、アインスタイニウムを標的とし、重イオン多核子移行反応を用いて100番元素以上の中性子の多い原子核を生成し、この領域の核分裂のメカニズム解明を目指す。
<研究計画2>
原子力機構は、SPring-8(兵庫県佐用町)の大型放射光施設において、0.1μgの極微量の試料であっても中心原子のまわりの水分子の配位が調べられる装置をビームラインとともに開発しており、これにより世界で初めて水溶液中におけるアインスタイニウム原子のまわりの水分子の結合の様子を観測し、重元素で顕著となる相対論効果を調べることにより、水溶液中での重元素の挙動解明を目指す。
<研究計画1>は重元素核科学研究グループ
(http://asrc.jaea.go.jp/soshiki/gr/HENS-gr/index.html)、
<研究計画2>はアクチノイド化学研究グループ
( http://msrc.jaea.go.jp/center_grp.html?grp=actinoid)
が担当しており、放射化学会会員が多く関わっている。
アインスタイニウムはマクロ量として利用できる最も重い元素であり、原子力機構ではこの貴重な試料を使える機会を提供したいとのことであるので、会員からアインスタイニウムを利用したユニークな実験があればぜひ提案していただきたい。なお、試料は平成31年3月でも、0.1μg利用可能とのことである。
[1]原子力機構プレスリリース2017.8.10
http://www.jaea.go.jp/02/press2017/p17081002/
(HK)

 

(15-03)  本会名誉会員、NHKラジオで、入市(広島)被爆体験、放射化学、ホットアトム化学、核兵器を語る

2017年8月8日未明、NHKラジオ第一放送「ラジオ深夜便」に、本会の名誉会員である佐野博敏氏(東京都立大学元総長、大妻女子大学名誉学長)が出演した。“明日へのことば・「原爆投下 川を泳ぐ焼き魚」”のタイトルで、インタービューに答える形として、約40分間にわたり、17歳のときの入市(広島)被爆体験で見たもの、その後放射化学に進んだ理由などを語った。ビキニ環礁の水爆実験の灰の分析のこと、社会の変動のホットアトム化学反応へのなぞらえ、人類滅亡につながる核兵器への懸念など、放射化学者にとって、興味を引く、また印象深い内容を含む語りであった。
佐野氏の話は放射化学に縁のない一般の市民が聴いても、心を揺さぶられるものがあったように思う。タイトルにある「泳ぐ焼き魚」は、大竹町(現在の大竹市)の学徒動員先から原爆落下翌日朝の広島に入る蒸気船から、下船直前太田川の河口にて、佐野氏が見るものである。広島入りは母上を捜索することが目的であった。6日後に被爆・負傷した母上に巡り合うのであるが、「泳ぐ焼き魚」は、捜索のため歩き回った佐野氏が見る広島の惨状の予感でありプロローグであったろうか。1年後、放射線・熱線で焼けた魚の絵を描くことになる。
NHKの関連出版社の月刊誌「ラジオ深夜便」[1]の11月号(2017年10中旬発刊)に、本件の放送内容の紹介記事が掲載の予定である。会員のなかに放送全編の録音を個人的に有する方がいるとの情報もある。必要があれば、学会事務局に問い合わせられたい。
[1] http://www.fujisan.co.jp/product/1224110/new/
(YS)
                                                           以上