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JNRSメールニュース 第10号 (2016/12/01)

 

目次

(10−01)
超新星爆発による60FeのAMSによる検出:海洋堆積物コア中の磁性細菌の微化石を試料として
(10−02)
本会会員、地球化学研究協会学術賞「進歩賞」を受ける
(10−03)
日本化学会欧文誌の「Selected Paper」賞を、本会会員の論文が受ける
 
 
 
 

 

 

(10-01) 超新星爆発による60FeのAMSによる検出:海洋堆積物コア中の磁性細菌の微化石を試料として

およそ200万年前太陽系のそばで起こった超新星爆発により生成した60Feを、海洋堆積物コア中の磁性細菌の微化石中の磁鉄鉱を試料として、AMS(加速器質量分析)を使って見つけたという研究が、最近報告された。Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS、米国科学アカデミー紀要)の2016年8月号に掲載された、ミュンヘン工科大学のLudwigらによるものである[1]。
  60Feは超新星爆発にのみによって生成する放射性核種(半減期;261万年)であるので、60Feの検出は超新星についての情報源となる。半減期261万年は宇宙時間スケールでは“短寿命”であり、60Feは地球誕生時には存在したが現在はない、として消滅放射性核種とよばれる。しかし、太陽系以外の超新星爆発が、“最近”、“近く”でおこり、それからの60Feが地球に届いているとすれば、「消滅放射性核種」ではなく「ET放射性核種」となる。
Ludwigらは、太平洋の堆積年代が既知である海洋堆積物コア試料を60Fe探索のターゲットとした。古い時代に超新星爆発により地球上に降り注いだ60Feが測定可能な含有量として濃集し、それを現在まで固定された“記録”として保持しているのは、磁性細菌の微化石中の磁鉄鉱であるとの予測・検討による。
彼らの希望にかなった試料は、結果的にはOcean Drilling Program(国際深海掘削計画)のLeg138のコア848、851の2つであった。両者のAMSにより測定された60Fe/Fe比は、コア深度位置(=年代)に対してプロット(time-resolved isotope ratio)されたが、前者では2.0Ma(200万年前)、後者では2.2Maにピークを持ったことが見て取れる。コア848試料のピーク位置・線幅の解析から、地球への60Feの降り注ぎは、260~280万年前からはじまり、220万年前にピークとなり170万年前まで続いたとされた。
60Feの測定結果を手掛かりに超新星爆発の歴史・痕跡を探る研究は、本会会員を著者に含む論文として、2016年4月にWallner ら[2]によりNatureに報告されている。彼らは、多数の大洋の堆積物、地殻試料、および鉄マンガンノジュール試料中の60Fe/Fe比のAMS測定値を整理・考察し、“最近”1000万年に地球近傍(326光年以内)で、2回の超新星爆発があったとした。それぞれ、150~320万年前、650~870万年前で、先に述べたLudwigらの報告値は、前者(150~320万年前)と重なっているようである。この論文の共著者の本会会員とは、木下哲一氏(清水建設)、本多真紀氏(筑波大)、山形武靖氏(日大)である。
また、Breitschwerdtら[3]も、今年(2016年)の4月発刊のNatureに関連の報告をしている。彼らは60Feの軌道(trajectory)計算を行い、200~300万年前の地球への60Feの流入を引き起こした超新星爆発の位置について検討した。少なくとも2回の超新星爆発が地球から300~330光年離れたところで起こったとすると、地球への流入量もうまく説明可能であるとしている。超新星爆発の場所は、日本からは夏の南の空に一部観測可能なさそり-ケンタウルス運動星団の中と推定されている。
 [1]  “Time-resolved 2-million-year-old supernova activity discovered in Earth’s microfossil record”,
 PNAS Vol.113, 9232–9237 (2016);  Peter Ludwig, Shawn Bishop,1, Ramon Egli, Valentyna Chernenko, Boyana Deneva, Thomas Faestermann, Nicolai Famulok, Leticia Fimiani, José Manuel Gómez-Guzmán, Karin Hain, Gunther Korschinek, Marianne Hanzlik, Silke Merchel, and Georg Rugel
[2] “Recent near-Earth supernovae probed by global deposition of interstellar radioactive 60Fe”,
Nature, Vol.532, 69-72 (2016);   A. Wallner, J. Feige, N. Kinoshita, M. Paul, L.K. Fifield, R. Golser, M. Honda, U. Linnemann, H. Matsuzaki, S. Merchel, G. Rugel,  S.G. Tims,  P. Steier, T. Yamagata, S.R. Winkler, 
[3] “The locations of recent supernovae near the Sun from modelling 60Fe transport”, Nature, vol.532, 73-76 (2016); D. Breitschwerdt, J. Feige, M.M. Schulreich, M.A.de. Avillez, C. Dettbarn, B. Fuchs
(YS)

 

(10−02) 本会会員、地球化学研究協会学術賞「進歩賞」を受ける

地球化学研究協会は、第3回(2016年)学術賞「進歩賞」を、日本放射化学会会員の清水建設株式会社技術研究所 研究員・木下哲一に授けることを発表した。受賞研究テーマは「革新的分析手法による放射性核種を用いた宇宙・地球化学的研究」である。2016年12月3日(土)「第53回霞ヶ関環境講座および第44回三宅賞受賞者・第3回進歩賞受賞者の受賞記念講演」が東海大学校友会館(霞が関ビル35階)で開催されるが、木下哲一氏の「進歩賞」受賞講演が行われる予定である。
http://www.geochem-ass-miyake.com/news.html
 なお、木下氏は、2012年の日本放射化学会・奨励賞の受賞者でもあり、そのときの受賞テーマは「消滅核種サマリウム-146の研究 ─特に半減期測定について」であった。
(YS)

 

(10ー03) 日本化学会欧文誌の「Selected Paper」賞を、本会会員の論文が受ける

日本化学会・欧文誌「Bulletin of the Chemical Society of Japan」(BCSJ)は、「BCSJ Award Article」を毎号1報の論文に与えている。それに準ずる数報の論文を「Selected Paper」として顕彰している。BCSJ編集委員会の選考による。前者が金メダルとすれば、後者は銀メダルであろう。BCSJの2016年11月号の「Selected Paper」は2報に与えられているが、その一つが、日本放射化学会・会員による投稿であった。広島大学・教授の中島覚氏と、中島研究室(放射線反応化学研究室)の安原大樹氏の共著論文で、以下のものである。
“Inter-Metallocene Cross-Coupling Reaction and Oxidation Study on Hetero Nuclear Bimetallocene Compounds including Fe, Ru and Os” BCSJ, Vol.89(11),1344 – 1353; Hiroki Yasuhara and Satoru Nakashima
安原氏、中島氏は、メタロセン(Mc)を2つ結合させた同核、異核ビメタロセン(McMc)を、M=Fe、Ru、Osとして合成した(Mの価数はすべて2価)。間にフェニル基を介在させて合成したり(FcPhRc)、さらに中性二核分子を1電子酸化、あるいは2電子酸化して塩としたものなど、多くの混合原子価の新規化合物に対して、1H-NMR、57Feメスバウアー分光で、主として酸化状態について新しい知見を得ている。メスバウアー分光測定から、[FcOcCl]PF6/原子価Fe(II)Os(IV)/は、78Kでは、鉄の酸化状態は2価であったが、室温(298K)では、2価以外に部分的に(23%)3価が観測され、部分的な原子価デトラッピング(原子価の平均化)が示された。この温度変化は可逆的である。1H-NMRでも、この混合原子価化合物では、高温側では原子価のデトラッピングがおきること、すなわち、Fe(II)Os(IV)⇄Fe(III)Os(III))である。異なる元素の原子間で原子価の平均化が起こることは新しく重要な成果である。
(YS)