JNRSメールニュース 第11号 (2017/1/01)
目次
(11-01) ビキニ水爆実験、福島事故に対する学会活動:web閲覧可能になった討論会要旨から
(11-02) ニホニウムを含む4つの新元素の名称がIUPACにより正式発表
(11-03) 113番元素記念シンボルロードの名称決まる
(11-01) ビキニ水爆実験、福島事故に対する学会活動:web閲覧可能になった討論会要旨から
日本放射化学会の母体である放射化学討論会の第一回会合の開催は1957年であり、日本原子力学会の設立の2年前になる。その1957年からの要旨集が、放射化学討論会の60周年記念事業のひとつとして、ホームページから閲覧可能となった。[1] 当時の印刷された要旨を全て読み取り、ホームページに載せるという大変な作業をして下さった関係者にまずお礼を申し上げたい。さらに、この電子化された要旨集には検索機能がついており、初期の手書きの要旨についてもキーワード検索で7割はヒットすると伺っている。
1957年当時は、1954年のビキニ環礁における水爆実験を受け、学会の対応も2011年の福島事故後の状況にやや類似していたことが窺われる。学士会館で開催された第一回会合では、木村健二郎、三宅泰雄、猿橋勝子、山形登など、当時の放射化学分野の優れた研究者の発表を直接閲覧することができる。
第一回目は放射化学部会(A)と応用放射化学部会(B)に分かれ、(A)では天然放射性核種、放射性同位体製造、測定、放射化学分離・放射化学分析、ホットアトム化学などが、(B)では、核燃料再処理及び廃棄物処理に関する放射化学的問題と並んで放射性フォールアウトについての調査研究が発表された。その中には、フォールアウトの89Srと90Srの測定、ならびに土壌、作物や食品中の137Csについての研究が報告されていた。特に、現在でも正確な測定が困難なため測定法そのものが議論となっている90Srについては、雨水中の90Sr濃度のきれいな季節変化のグラフが示されていたことには驚かされた。
ビキニ実験による放射能の影響の発表は第3回目あたりまで精力的に発表されていたが、次第にその成果は他の放射化学研究の中に広く浸透していった感がある。1957年は、日本原子力研究所(現在、日本原子力研究開発機構)のJRR1が臨界に達した年であり、原子炉を用いた研究が大きく伸びてきたことも影響したのかもしれない。昨年開催された放射化学会・放射化学討論会の年会では発表者の3割ほどが、またポスターでは半分近くの発表が福島の問題に関連していた。
放射化学分野の研究の変遷がこのように要旨集から明瞭に辿ることができる。
[1]. 本学会メールニュース(9−04)「放射化学討論会全要旨のweb公開」(2016.10.4)http://www.radiochem.org/publ/jnrsmn/mn009.html
(TMN)
(11-02) ニホニウムを含む4つの新元素の名称がIUPACにより正式発表
International Union of Pure and Applied Chemistry (IUPAC)は、2016年11月28日に新たな4つの元素の名称と記号を発表した。発見者により提出された以下の名称は、5ヶ月のpublic reviewを経て、IUPAC事務局により承認された。
113番元素“Nihonium”(元素記号:Nh)
115番元素“Moscovium”(元素記号:Mc)
117番元素“Tennessine”(元素記号:Ts)
118番元素“Oganesson”(元素記号:Og)
これら新元素発見における命名権の行方は、その要求の審査を履行した先行研究に基づいて決定され、発見者らに命名の依頼がなされた。慣習に則り、発見者らは発見に関わった場所・地方または科学者に因んで命名した。元素名の語尾もまた歴史的また化学的背景を反映している。113番・115番元素については、第1から16族の新元素と同様に語尾に“-ium”、117番元素については第17族に共通である“-ine”、118番元素については第18族に共通の“-on”を持つ。
113番元素Nihonium(Nh)は、日本のRIKEN仁科センターの発見者により提案され、“日出国(ひいずるくに)”を表す“日本”に由来する。115番元素Moscoviumと117番元素Tennessineは、ロシア・米国の共同研究による発見者により提案され、それぞれThe Joint Institute for Nuclear Researchがある“モスクワ”、Oak Ridge National LaboratoryやVanderbilt大学がある“テネシー”に因む。118番元素Oganessonは、同じくロシア・米国の研究機関で発見され、超重元素研究のパイオニアであるY. Oganessian教授の名前に因んでいる。新元素の記号に関して化学者から、117番元素Tennessineの記号“Ts”はtosyl基の略語としても用いられており重複する、とのコメントが寄せられたが、“Ac”や“Pr”の例もあり、文脈から正しく判断可能であると結論付けられた。
N. Tarasova教授(IUPAC)は次のように述べている。“日本・ロシア・米国と名誉を与えられた場所が広領域であること、優れた研究者Oganessian教授。今回発見された新元素の名前は、今日における我々の真実を映し出している。それは、科学の多方面性・人的資源の重要性である。”
[1] IUPAC Press Release (2016.11.30.) https://iupac.org/iupac-announces-the-names-of-the-elements-113-115-117-and-118/
(MK)
(11-03) 113番元素記念シンボルロードの名称決まる
理化学研究所のある、埼玉県和光市(池袋から電車で約30分)が、現在九州大学の教授の森田先生らによる113番元素の発見を記念してシンボルロードを和光市駅から理研まで整備することになり、その名称を市民に公募していた。
整備されるのは、和光市駅南口からバス通り沿いで、池袋方向に少し戻り、外環道を越えたところで理研方向に曲がり、外環道の側道沿いにバス亭「広沢」の手前の理研西門までの「フ」の字型となる。
公募の結果、昨年の12月に「ニホニウム通り」に決定したとのこと[1]。
「そのまんまじゃん」という声も聞かれるが、早々の完成を目指して整備が進むことになった。 これで、新旧川越街道を横切る際の不便さも解消されることになると期待される。
なお、2位は「理研通り」、3位は「113ストリート」、4位は「理化学の小径(こみち)」だったとのこと。
会員のみなさんならどれを選んだろうか?
[1] 和光市のホームページ
http://www.city.wako.lg.jp/home/shisei/kihonseisaku/renkei/riken/_16597.html
(YW)