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日本放射化学会会長を退任するにあたって

中西友子 (東京大学)

2014年9月から3年半、何とか会長を務めさせていただくことができたのは、ひとえに理事の皆様ならびに会員の方たちのお陰です。
この学会の特徴のひとつは若い会員の活動が目立つことです。放射性同位元素を扱う施設が減少していく中、その施設の管理に必須な放射線取扱主任者には若い人が選任されていることも多く、その方たちが身近なアイソトープを使って研究をする時の拠り所として本学会に参加されることも判ってきました。そこで、学会のホームページを充実させて会員の方たちへ情報提供をしていくことがまず大切な課題となり、酒井陽一先生をはじめ、担当の先生方には大変ご苦労をおかけしました。お蔭様でJNRSニュースをはじめ、1957年の第一回放射化学討論会から今に至る学会要旨などをホームページで見ることができるようになりました。ビキニ事件から3年後の本学会で発表された研究成果は、福島第一原発事故後の研究に類似したところがあります。しかし、その実験の実情は、今ではとても考えられないような大変な作業を伴う放射化学的な分析でした。それから60年以上、今日まで続く放射化学分野の研究発表の蓄積はこの学会のもう一つの特徴でもあります。その間に培われたノウハウと、忌憚のない議論が交わされた本学会の風土は貴重な財産とも言えるでしょう。
 放射化学は広く他の学術領域と共に発展する学術分野でもあります。今後、放射化学の知見を必要として発展していく学術領域としては、核医学や核鑑識などが挙げられるでしょう。米国ではこれらの分野の進展に伴い、放射化学者数の減少が阻止されたと伺っています。
これからは、篠原厚新会長の下、本学会が益々発展していくことを祈念しております。(2018.3.30)

 

 

会長就任に当たって

篠原 厚(大阪大学大学院理学研究科)
平成30年(2018年)4月1日より会長を仰せつかります。私は、中西会長の2期目に副会長として、しばらくぶりで理事会に参画させて頂いておりました。はじめは浦島太郎的感覚でかなり様子が変わっていることに驚いていました。ただ、やはり本質的課題は同じで、我々の日本放射化学会は厳しい状況にあることを再認識しています。
しばらく外から見ていますと、何とか学会を改革しようとするそれぞれの会長の苦労されている様子が垣間見えましたが、新しい試みは準備にも時間がかかり、なかなか難しい状況のものもあります。中西会長の下でも、まだ表に現れていませんが種々の試みがなされていますので、先ずは連続性を大事にしたいと思っています。ただ、抜本的変革を行う時期でもあるとも思っています。
会長就任に当たり会員のみなさんにメッセージを発信しようと、改めて歴代会長が何を考えて会長職に臨んだか、ホームページが良く整備されており「放射化学ニュース」や「放射化学」のバックナンバーで見ることが出来ますので、その中の会長挨拶を読んでみました。皆さんそれぞれ特徴もあり問題点を的確に捕らえ、その解決に意欲が感じられるものです。しかし、よく見ると、実は同じことがいつも課題に挙がり、学会創設以来、高邁な創設の理念と併せて、当初から多くの課題が指摘されていましたが、ほとんど解決されないままであることも分かります。研究を開始する前にレビューを読んでしまうと研究がもはや終わっているかに思えるので、ダメだ、と学生の頃に私の恩師から言われましたが、まさにその通りで、抜本的改革を行う時期だと言いながら、これまで色々会長が努力されてきたことに加え、改めて私が何を抱負として描けるか悩んでしまいます。
放射化学は自然科学の中でも非常にベースになる学問の一つで、ベクレルの放射能の発見以来、強い力や弱い力と係わる基礎化学として物質観の拡張に貢献し、化学からの核現象研究、核現象による化学研究を発展させ、広い応用分野も含む学際的科学としても進化を遂げてきています。核現象と核エネルギーを安全に利用するためには、その基礎研究部分を担う放射化学・核化学の発展、そしてその教育と人材育成の重要性は言うまでもありません。我々の日本放射化学会は、皆さんご存じの通り、この高邁な理念の元、学際的分野も含めた広いスタンスで、会員(研究者)の研究の促進と交流の場を与えること、放射化学にたいする社会的認識の向上、放射線教育の普及などを目的に、平成11年(1999年)に設立されました。
福島原子力発電所事故の時、このような背景と専門性を持つ放射化学会は、事故への対応に最も重要かつ多くの人材を有する学会の一つであったはずです(現に、当時活躍した研究者の多くは放射化学のメンバーでした)。しかるに、放射化学会は社会や国から存在が認識されていませんでした。学会としての社会的認知がなされていない、言い換えると社会に対してその役割が果たせていないことが明らかになったと言わざるを得ません。このままですと単なる「同好会」でしかありません。
この基礎に軸を置く高邁な学会創設の理念はすばらしいものですが、間違えてはいけないのは、基礎を軸とするのは研究者であり、学会ではありません。学会は、研究者にそのような環境を与え、社会にその重要性を周知し、社会との交流を仲介する、いわば研究者にとって居心地が良くかつ機動性のある「船」のようなものです。学会としては、多くの広い他分野と関わり、社会や国にもつながり、個人ではやりにくい事業活動や組織だった社会活動・教育、大きな連携によるプロジェクトの受け皿になるような機能が必要です。個人である会員(研究者や学生)に対して組織として何が出来るか、何をするべきか、皆さんとじっくり真剣に考え、浮かび上がった課題の内で少しでも解決できればと思っています。
まだ具体案はあまり有りませんが、検討を始めたい観点として、今のところ次の3点があります。すなわち、「学会の法人化」、「会員増強」、「若手の活性化」です。これらいずれも(特に前者2件は)今の放射化学会の実力では単独では困難で、周辺学協会との連携体制の構築が必要と思っています。若手の件は、皆さんご存じの通り、現在新しい体制が築かれようとしています。連携の方は、すでに中西前会長が手がけられています。この中で、これまでも議論され見送られてきた法人化は、もちろん容易いものではなく、学会組織そのものに係わる大改革を伴います。ただ、現在の研究者を取り巻く社会の厳しい変革の中では、研究者が乗る船として、せめて手漕ぎのボートではなく、エンジン付きのクルーザーレベルに引き上げるためには必須の条件で、その実現により行動範囲が格段に広がり、組織として正常に動くことが出来ます。また、上に課題として挙げてもいない英文ジャーナルの件ですが、これはもはや課題のレベルではなく、現在瀕死の状態です。廃刊を覚悟し今の方針で最大限努力してみるか、上記の連携とも絡んで大刷新を図るか、どちらかと思います。
これら全ての底流に流れる方針として、会員がメリットを感じる学会を目指すというものです。「もっと会費を払いたい!」と思えるような学会になれば上記の問題は全て解決します。ただ、上記のことは、会員がメリットと感じて積極的に参画頂けなくては出来ないことでもあり、まさに卵と鶏の関係です。そこを、何とか組織としてするべきことを良く見極めることから、好循環に持って行く最初の一押しが出来ればいいのですが。そのために理事を中心に広く会員に有志を募り、幾つかのワーキングを立ち上げたく思っています。
ここで、理事と会員の皆さまにお願いがあります。私には、以前、大学の部局長をしていた経験から身につけた得意技があります。「丸投げ」です。今の大学で起こる多くのことを一人で出来るわけはなく、それぞれ適任者に丸投げします。丸投げはそれを受けとめる能力のある人を見極めるのがポイントです。理事に選出された皆さんは当然その能力をお持ちのはずですので、今回の理事会は比較的若い人が多いですが、頑張って勉強してもらい、少し負担かも知れませんが丸投げを受けて頂きたく期待しています。学会の改革?をするにはしがらみの無いフレッシュな良い布陣だと思っています。
最後に、会員の皆さまにお願いです。今述べてきましたように、好循環に回す駆動力は、理事会だけでは無理で、それを何とかするために、最初は嘘でも良いので、学会のメリットを感じた振りをして積極的に学会に係わって下さい。そうすれば、全体が良い方向に回り出し、本当にメリットを感じる学会となると思います。会員の皆さん全員で、社会的存在意義のある真に放射化学の進化に寄与する放射化学会を作りましょう。(2018.3.27)

(写真;中西友子会長とともに(新旧メンバーによる理事会後の懇親会(2018.3.3)にて))

 

 

会長に就任して

日本放射化学会会長 中西友子

 この度、日本放射化学会の会長に就任いたしました。私は現在、大学の農学系の組織に属しておりますが、このことは放射化学の現状を物語る一面を表しているかもしれません。かつては理学系の放射化学の研究室で学んでおりましたが、その後、生命科学や医学等様々な分野を経て農学部で研究を行うようになりました。しかし、研究内容の面においては、所属とは無関係に、常に放射化学を基盤として共に歩んできたという自負があります。周囲を見回しますと、私と同様に、かつての放射化学関連の研究者の方々も様々な分野で活躍されており、必ずしも放射化学という看板の元にはおられない方がたくさん見受けられます。つまり放射化学は非常に広い分野への応用が可能であり、また、それらを支えることができる学問なのだと痛感しています。ただその応用性はさておき、根幹である「放射化学」という看板を掲げこの分野の人材を輩出する研究室が、日本にもうごく僅かしか残っていないことがひとつの大きな問題だと感じています。最近逝去された、米国カリフォルニア大学バークレー校の故H. Nitsche先生が、数年前、国際会議の昼食会で、全米の放射化学という名前のついた研究室の数について話されていました。先生のお話しでは、米国においてもその数はかなり減ってきてはいるものの、その減少は米国においては底を打ったということでした。
 一方、日本では2011年3月11日の福島第一原発事故以来、日本中の人が放射線や放射性物質に関心を持ち、それらは何なのか、また影響はどうなのか等について熱い眼差しを注いでいます。このように、かつてないほど一般の人の放射線に関する関心が高い時に、学会としてどうそれを説明し発信していけるのか、それが放射化学討論会時代からの長い歴史を持つ放射化学者の集まりである日本放射化学会の一つの大きな役割だと感じています。 
 このような背景の元で、日本の放射化学の学問の中心を成す日本放射化学会を、将来に向けていかに活力のあるものにしていくのかが私の第一の課題だと考えています。そのためには、まず、学会の基盤の強化ならびに学会の更なる活性化が必要だと考えます。学会の基盤強化については、例えば他の関係する学会や会合とのコラボレーションが考えられます。放射化学という学問の重要性をもっと広く認知させていくためにも、関連するいろいろな分野の方々と、様々な機会を通して積極的に協力していくことが大切だと思います。例えば米国の放射化学関連の国際会議はかなり内容に関連性のある分野を入れ込み、放射化学との意見交換ができるようになってきています。原子力関連の例を挙げると、事故処理のみならず、溜まっている放射性廃棄物処理などについても放射化学の知識が不可欠です。
 学会の活性化について考えられることの一つは、学会内における広報活動の充実化です。例えば会員一人一人との意見や情報のやりとりをもっと活発にしていくため、会員間の積極的なネット活用が考えられます。主催や共催をしているシンポジウムなどの会議の案内あなどは既に行われていますが、ネットを通じた研究内容に関する情報共有や互いの議論をもっと活発に行い、特に学術面での過去の知見、今後の展開、Q&Aなど、放射化学を学ぶ上での情報が日常的に議論できるようにしたらいいのではないでしょうか。そして研究を進める上での具体的な実験操作や測定方法、あるいはそれらの応用についても知識の共有化を図っていきたいものです。福島の事故についても、放射化学の面からの解析や意見についての発信がもっとあってもいいのではないかと思います。
 これらはまだ考えの一端にすぎません。理事会の方々をはじめ、会員の皆様の考えを最大限反映していく中で、日本放射化学会の活性化をいろいろな面から図っていきたいと考えています。(2014/9)